アメリカからの便り
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世界エイズ・デー
12月1日は、世界エイズ・デーでした。
各地で様々なイベントが開催されていたようです。
今年のメディカル・コンシェルジェの新人研修先でもあったSan Francisco General Hospital (SFGH)でも、イベントがありました。それというのも、SFGHは1893年に全米初でHIV専門病棟を設置し、HIV/エイズ関連の研究や各種プロジェクトの先駆者で
あるからです。HIV/エイズが、同性愛者の感染病や不治の病と考えられていたころから、理解や考え方がだいぶ進歩してきましたが、SFGHは多大な貢献をしてきたのです。
SFGHを始めとした、数々な研究所からHIV/エイズの治療薬が開発され、今ではエイズのワクチンの研究がされています。エイズの予防薬の開発です。つまり、水疱瘡などの予防接種と同じ考えです。私の勤務先であるUCSFの臨床研究病棟でもこの研究が行われています。実際、私もこの治験薬の投与をしました。
この研究の対象者は、HIV/エイズの感染者ではなくて、健康な人達です。このような治験研究に参加する人を私は尊敬してやみません。どの研究であれ、リスクを最小限にするために様々な工夫がされます。しかし、それでも予知不可能なリスクがありますし、数週間おきに病院に来て、両腕に注射を打たれるのは、楽しいことではありません。研究参加の動機に興味をもった私は、その理由を聞いてみました。驚いたことに、知り合いをエイズでなくしたことを理由に挙げる人が多くいました。それにしても、大きなコミットメントです。
SFGHは、HIV/エイズの治療だけでなく、QOL(Quality of Life:生活/人生の質)を高める研究や介入、そして教育の先駆者でもありました。現サンフランシスコ市健康局長のMitchell
Katz氏は、この専門病棟の設立時からSFGHでHIV治療に関わってきた方です。彼はSFGHでのエイズデーのスピーチの中で、「HIV患者のケアが特別なものでなく、他疾患のケアのモデルになったらいい」と言ってました。
HIVのケアはどうしても特別扱いされがちです。日本では、HIVの検査を受ける窓口も少なく、偏見が強く、感染者は隔離されています。私もB型・C型肝炎の患者さんの看護をしてきましたが、同じように対人感染の可能性があるHIVは特別に考えていました。けれでも、サンフランシスコ市に来て、毎日のようにHIV/エイズの患者さんと関わるようになって、他の患者さんの看護と変わりないと考えるようになりました。考えてみれば、どの人であれ、感染リスクがある可能性があるのです。HIV/エイズの人は、検査をしたのでHIV+と分かっている、その差なのです。
UCSFでは、どの患者さんに対しても手袋をし、採血をします。HIV/エイズと分かっている人だけではありません。採血に使う針も、使用後は針がすぐに収納できるようになっており、医療者の刺し事故の危険性を最小限にするようになっています。これは、Universal Precautionといって、全ての患者さんの対応に共通します。だから、差別にはなりません。それでも、医療者への感染を予防し、他の患者さんとの並行感染を予防します。HIVだから特別だったことが、特別でなくなり、よりよい臨床実践のモデルとなる。これは、Katz氏の発言に共通しています。まだまだ、HIV/エイズのケアから学ぶことがありそうです。
もう、数週間で2008年も終わりですね。厳しいニュースが多い年でした。
人生観が変わった人もいるのではないでしょうか?
気持ちを入れ替えて、いい年を迎えましょう!
来年もどうぞよろしくお願いします。

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プロフィール
喜吉 紘子 (看護師、保健師)
1977年10月生れ、10〜14歳までをアメリカで過ごす。
聖路加看護大学を卒業の後、およそ3年間虎の門病院に勤務。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)大学院にて修士号取得(看護管理学)。
現在、UCSF大学病院・治験病棟にて臨床看護師を務める傍ら、病院の看護研究/教育部の助手として も関わりを持つ。
今後の時代を睨み(株)メディカル・ コンシェルジュのアドバイザリー・ナースとしても活躍中である。

「アメリカからの便り」
開設にあたって・・・

この度『アメリカからの便り』を開設するにあたって、病棟勤務、看護研究、翻訳業務などにて多忙を極める喜吉紘子さんに快くご協力頂きましたことを感謝いたします。
医療・看護に携わる全国の医療従事者の皆様方に向けて、今後の参考と励ましになれば嬉しく思います。

※ このサイトは月1回のペースにて書き換えをいたします。
尚、喜吉紘子さんは2007年9月よりUCSFの博士課程に進学致しました。
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