アメリカの医療改革:第1弾 医療改革の本音
先日、珍しく日本語が達者な日本人の患者さんと出会いました。サンフランシスコでは、日系アメリカ人は少なくありませんが、日本語が流暢な人はそう会いません。彼女は英語を使い慣れているようでしたが、私が日本語を話せることを非常に喜んでくれました。
色々と話している中、医療費の問題が何度も持ち上がりました。彼女は、何かあったら日本に医療を受けに帰る予定だったそうですが、症状が悪化し救急救命室に駆け込んだ段階では、病気が進行しており日本に帰ることもできない状況になっていました。症状が出始めた段階での検査を断念したのは、「MRI検査だったら何十万円かかるから、やめておこう。さらに入院が必要だったら、またお金がかかるし」が理由だったそうです。彼女は現在絶対臥床(食事等のためにでも頭を上げてはならない)をしいられ、大手術を予定しています。
これが悲しいアメリカの医療の現状。
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アメリカでも、経済的基盤が安定している企業に勤めている人であれば(世界経済上、だいぶまれなことになってきましたが)、日本のように雇用者を通して医療保険に加入することができますが、このような場合はUnder-Insuredという問題があります。これは、被保険者であっても、保険が適応する範囲や金額が不十分であることです。例えば、CT検査は病気に関係なく、年に1度しか保険が適用されないとします。健康であれば、問題ありませんが、病状的に数ヵ月ごとのCT検査が必要なことがあります。このような場合は2回目以降のCT検査は自己負担になるのです。
自由業の場合、医療を取り巻く状況はさらに厳しさを増します。収入が一定額以上あれば、私立の個人保険に加入することができますが、家族4人であれば、安くても毎月数十万かかります。それ以前に、個人保険に加入するには「健康」であることが必要なのです。加入する上で明らかな差別があるのです。健康な人であれば病気になるリスクが低い、ということで保険会社はこのような人を加入したがるのです。車の保険と同じ要領です。スポーツカーを運転していれば、リスクが高いとみなされ、保険料が上がるのと同じ道理です。よって慢性病、例えば糖尿病や高血圧があるような人は、医療保険に加入しにくい仕組みになっています。
失業した場合はどうなるのでしょう?アメリカでは失業は他人ごとではありません。今では、1985年に制定されたConsolidated Omnibus Budget Reconciliation Act(通称COBRA)という法律により、解雇された会社の医療保険プランを団体料金で一定期間維持する事ができるというものです。しかし、これも限定期間のみ有効です。
今回のオバマ政権での医療改革案については、患者側、また看護師を含む医療提供者が声高に発言しているものの、影響力・政治力のあるのは、財政力のある医療保険会社やアメリカ医師会の団体です。アメリカ医師会は、国民皆保険制度を支持するように思えますが、実は過去数回に渡って、皆保険制度を阻止してきたのです。表向きの理由は、数多くありますが、本音に対する一般的な解釈は医師への診療報酬が減るとの懸念からです。
オバマ政権は、今の公的医療保険制度(Medicareなど)を拡大する案を打ち出しています。私的保険会社は、この代案では、公的保険利用者の絶対数が多くなるため、私立保険社の競争力が落ちると考えています。それで、私立保険会社は現案の国民皆保険制度に難色を示しているのです。